『Summer vacation Quartet』 #04 *天ヶ瀬あかね編
#04/雨とコーヒー牛乳と阿修羅すら凌駕する男
――#04
早朝から降り出した雨は、勢いこそ増さないがシトシトと静かに降り続けていた。
「チェ、よりにもよってなんで雨なのかね」
シエルはロビーのソファーに深く腰掛け、自販機で買った紙パックのコーヒー牛乳にストローを差す事もなく手元で転がして溜息をついた。
一夜明けて自分の昨晩の行ないを思い返すと、それはまさに穴があったら入りたいという心境そのものであった。
事故だったとはいえ自分の胸を見て和泉が鼻血を出したと思い込み、逆上してしまったこと。実はそれはシエルの早合点で、和泉はシエルの胸も見ていなければ鼻血を出したのも別の理由であったのに、本気で突っかかって傷を負わせてしまったこと。
少なくとも傷を負わせてしまったことについては和泉に謝らなければならない。そう思いつつも彼女はきっかけをうまく掴めないでいた。朝食時にも機会はあったが、それも上手くいかなかった。
普段、他人に対しては大見得をきっているシエルだが、いざ自分の事となると意外や意外。中々の不甲斐なさを発揮している。
シエルはもう何度目かもわからなくなった大きな溜息をついた、
そんなシエルの前を横切って、隣のソファーに一人の男がどっかりと腰を下ろした。和泉だった。
和泉は話しかけてくるでもなく、ロビーの大きな窓から仏頂面で雨空を眺めている。シエルはそんな和泉にちらちらと目をやるが、彼は意に介する様子もない。
謝る絶好のチャンスにもかかわらず、シエルはなかなか話を切り出すことが出来ないまま、ただ居心地の悪い時間だけが流れて行った。
雨は全く降り止む気配がない。和泉も腕組みをして雨に煙った窓の外を眺めたまま動かない。あちらから話しかけてくることなど、これっぽっちもなさそうだ。さすがにこのままで埒があかない。シエルは意を決してその口を開いた。
「あのさぁ、イズミ」
「なんだ?」
すこしばかり強張ったシエルの声だったが、それを気にかけることもなくぶっきらぼうに答える和泉。
「えと……」
本当ならここで謝罪の言葉を投げかけるべきだったのだが、何故かシエルには和泉がそれを拒否しているかのように感じられ、言葉に詰まってしまった。
「だから、なんだよ?」
話しかけておいて黙り込むシエルに、痺れをきらした和泉がシエルの方を見た。額と頬に貼られた絆創膏が痛々しい。
「ぷ、いい顔だな」
やってしまった――とシエルは口の端をヒクつかせた。
和泉はシエルを女扱いしない。かなり雑に扱っているといってもいい。そんな和泉にシエルも憎まれ口をたたいてしまう。シエルはこんな気楽な関係が気に入っている。しかし、こんな時にまでつい悪ぶった態度をとってしまう自分が憎らしかった。
「ふん、俺は顔だけはいいからな。こんなになってもワイルドさが増してますますモテるだけさ」
和泉はシエルの言葉に腹を立てることもなく、いつものような言葉を返してきた。
「なに言ってんだ。おまえの本性が超ビビりって知ったら誰も相手なんかしないよ」
「言ってろ」
普段と何ら変わらない会話。これでは改まって詫びを入れるなど、とても出来る雰囲気ではない。シエルは内心頭を抱えた。先ほどの和泉の態度から察するに、謝ったら謝ったで今度はそれが原因でケンカになってしまいそうだ。それでは困る。
シエルにはどうしても確認しておきたいことがあったからだ。シエルは和泉への謝罪をひとまず棚上げすることにした。
「イズミ、あらためて聞くけどさ」
「だから、なんだっつの」
シエルは、少しだけ捻った質問を投げかけた。
「おまえにとっての私ってなんだ?」
「……? なんだそりゃ。幼馴染以外どう答えろってんだ」
「いや、まぁ、それは前提としてだ」
和泉は椅子に深く腰掛けると少し考え込んだ。だが答えが纏まらない彼には、結局シエルの質問に質問で返すしかなかった。
「どうしたんだよ?」
「なにが?」
さらにシエルが質問で返す。これには多少いらついた和泉だったが、昨日の今日でまたもやケンカはごめんだと、その気持ちを飲み込んだ。
「ん、だから、そういう事いう女じゃねーだろ、おまえはよ」
「そういう事って?」
「だぁ! お前を女として扱ったらこれだ!」
シエルは和泉の言葉にハテナ顔になる。シエルは和泉の言葉にハテナ顔になる。互いに話がかみ合っていないと感じていたが、そのまま会話を続ける。
「いやだからさ、私のおっぱいには、そこまで魅力がないかと聞きたいんだ」
「なんだそりゃ!!!?」
雨の為にロビーで足止めをくっている宿泊客が一斉に和泉の大声に注目する。昨日騒ぎを起こしたばかりの二人はこれはまずいとすぐさま立ち上がり、ペコペコと頭を下げ「すいません、すいません」と愛想笑いを浮かべながらその場をごまかした。
「だぁ……勘弁してよね、もう」
「悪りぃ」
まだ午前中だというのに、一日分の精神力を使い果たしたかのごとく、二人は虚ろな目をして再びソファに腰掛けた。
カラカラになった咽を潤そうと、シエルは少し生温くなってきたコーヒー牛乳のパックにストローを差し込むと口をつける。
「あ、俺もなんか買ってくるか」
勿論咽が渇いたのは和泉も一緒であった。
「ん」
立ち上がろうとする和泉に、シエルが飲みかけのパックを差し出す。
「なんだ? くれんのか?」
「うん」
シエルからコーヒー牛乳を受け取り、和泉もそれを飲みはじめた。
「……生ぬるいな」
「な、あんまり美味しくなかったから」
好意じゃなかったのかよ、と突っ込みを入れたい気持ちを抑え、和泉はそれを一気に飲み干した。
「で、話は戻んだけどさ、おまえの、そのなんだ。胸の話か?」
「そう」
和泉にはシエルの意図がさっぱりわからない。
仕方ない、と和泉は大きく深呼吸をした。
「あれだ。ここらで回りくどい事は止めようぜ。もうちょっとわかりやすく説明してくれ」
「……和泉って私の事、弟だって前にいったよね」
シエルは少しだけ躊躇いながらもその言葉を発した。
「ああ、言ったなぁ。というか今でも思ってるぞ」
あまりに今更の確認に訝しげな顔する和泉。だが、その言葉にシエルは嬉しそうに頷いた。
「ん、そういうことか。サンキュな、イズミ」
「は?」
なにやら一人で納得してしまったシエルに、和泉は完全に置いていかれてしまった。
「いや、待て説明しろよ!」
「あ、もういいッス。私は納得したんで、別にいいッス」
「おまえなぁ!?」
詰め寄る和泉をスルーしながらシエルはケラケラと笑う。
昨晩の事件でシエルは自分は女で、和泉は男だということを意識してしまった。和泉に胸を見られることがこんなに気恥ずかしいとは想像も出来なかったし、和泉が自分の女の部分に興奮したのかと思うとよくわからない苛立ちを抑えきれなかった。シエルは二人の関係に性別などどいうものがかかわってくるのがひどく嫌だった。しかし自分があんな態度をとってしまったことで、和泉にもそれを変に意識させてしまったのではないか。これまで築いてきた関係が壊れて行ってしまうのではないか。それが怖かった。
だが実際には和泉はこれっぽっちもそんな事を考えていなかった。先走って深く考えてしまった自分が馬鹿だったとシエルは笑いを堪えることが出来なかった。
貴之にとっては妹、そして和泉にとっては弟。
その心地の良いポジションを貴之だけはなく、和泉もしっかり守ってくれている。そう思えばシエルは少しだけ素直になることもできる。勿論これらがシエルの勝手な思い込みにすぎない可能性もある。だが、そう思い込むことで和泉との関係を今のまま続けることができるなら、それもよしだと考えた。そう、全てはあくまで自分の心の持ちようだ。
二人の関係はケンカするほど仲の良い兄弟。それ以上でもそれ以下でもない。
不服な顔をする和泉に、シエルはパタパタと手をふった。
「まぁまぁ、そんな怒るなって。今日の昼は私が奢るからさ」
「え? あ、そうなん?」
急に声のトーンを上げた和泉に、シエルはさらに吹き出した。
「イズミはホントにやっすいねー」
「うっせ!」
口をついて出た言葉はいつもの調子に戻っていた。
昨日の件はもう済んだこと。二人の関係はこれまでと何も変わらない。もう謝るとか謝らないとかそういう話ではなくなったとシエルは思った。傷を負わせてしまったのはちょっと悪かったかなとは思ったが、これにて一件落着だと、すべてのつかえが取れたシエルはニシシッと笑った。
少し時間は遡る。
朝食の時から元気のなかったシエルが気になった円は、彼女のあとを追いロビーへとやってきた
二つほど離れたソファーの背に隠れ、コソコソとシエルの様子を伺う。その隣にはなぜか庄治。庄治も同じようにこっそりとシエルの姿を覗き込む。
何やらアンニュイな表情で窓から空を眺めているシエルに視線を奪われている庄治が、思わず呟く。
「たはぁ、やっぱシエルちゃん可愛いなぁ」
普段は見ることもない物憂げな表情もシエルには似合っていた。
そんな絵になる美少女の横顔に庄治は溜息をもらす。円はうんうんと頷く。
「ほんと、シエルちゃんは可愛いよねぇ……ほんとお人形さんみたい」
円も負けずとシエルを褒める。今度は庄治がうんうんと頷いた。
「……ところでさ、月島さん何やってんの?」
ソファの裏側にはりつくようにしゃがみこみ、目元までを背もたれから覗かせている円の姿は、不審人物はこうあるべきだと主張するかのような姿であった。
「うん、シエルちゃん元気ないから励まそうかと思ってたんだけど、なんかいつもと様子が違ってて」
先ほどのシエルの顔を見ればそれは庄治にも理解できる。
「確かにね。昨日のケンカが尾を引いてんのかなぁ」
庄治も人の事をいえないおかしな格好でソファの影に隠れつつ、円の言葉に同意した。
「ふぅ」
さすがにこの体勢は長くは続かないと円は座り直した。庄治もそれに習う。
「オレはあいつらの事よく知らないけど、ケンカするのは日常茶飯事だって相馬から聞いてるぜ」
ケンカをするたびにいつもこんなに落ち込むのかという素朴な疑問だ。
「ああ、うん。なんかいつものケンカと様子が違うの。……うーん、なんだか一方的にシエルちゃんが思いつめてる感じが私にはするんだ」
「へぇ……」
幼馴染の円がいうのだから恐らくその通りなのだろう。
それにしても庄治も随分と円と仲よくなったものである。クラスメイトの女子からは煙たがられる事の多い庄治だったが、そんな彼にも円は普通に接してくれる。なんというか心が広い。庄治にとって月島円はまるで女神様のような存在だ。
――まぁ、好みはシエルちゃんだけど。
と内心でゲスい事を思ってしまうのが庄治がモテない所以である。
「どうする? シエルちゃんに声かけにいく?」
「そうだね、シエルちゃんは私がなんとかしなきゃ!」
小声で気合を入れると円は立ち上がる。
おおっと小さく感嘆の声をあげると、女神の奮い立つ姿に小さな拍手を送った。が。
「あれ?」
無言で円が座りなおす。
「行くんじゃないの?」
「し、しーーーっ!!」
疑問を口にする庄治に、円はすごい形相で人差し指を唇につけ、お願いだから静かにしてと懇願してきた。
なんだなんだと周りを見ると、庄治もその渦中の人がそこに居る事に気付いた。
「うお、結城」
昨日シエルと大ゲンカをしたその人、結城和泉がふらりとロビーへとやってきたのだ。
「げぇ、ここで二人だけでハチあわせてってまずくね?」
さすがに庄治もこれは危険だと踏んだ。シエルがあの様子だと、また一悶着あっても不思議ではない。
「だ、だよねぇ、どどどどうしよう」
あわあわと口元に手をやり慌てる円。女神様はとことんハプニングに弱いらしい。
「ここはいっちょ、オレが結城に声をかけてくるかね」
庄治は人肌脱ぎますよと抜群のサムズアップを見せ立ち上がる。
「わっ!」
Tシャツの裾を円にひっぱられて、庄治は体勢を崩す。
「だ、ダメーーッ!」
声にならない叫びを上げながら、必死に座ってとゼスチャーをする円。
よくよく見ると、和泉はシエルを目指して歩いていた。どうやら気まぐれでロビーへ現れたのではなく、シエルを探していたらしい。となると、わざわざここから走って行って和泉を引きとめるのもおかしな話である。
「あ、ああ、これはあかんな」
庄治も再びソファーの影に身を隠す。
それにしても、ここがロビーの一番端っこで良かったと庄治は思った。入り口付近でこんな事をしていたら、また花房の叔父に説教されてしまう。プライベートの旅行に来てまで、これ以上大人の小言を聞かされるのはまっぴらごめんであった。
「……なんか話してる。大丈夫かな、大丈夫かな」
円の太めでキュートな眉毛が眉間へとギュっと収束する、
そんな円の様子に、庄治はつくづく相馬貴之の周りにはお人好しが多いのかと呆れかえる。その中でもダントツで月島円はお人好しクイーンなのだが。
「わりと静かに話してるみたいだし……大丈夫じゃね?」
と、しばらく無言で見守っていると、急に和泉が大声を出して立ち上がった。
「うわ、どうしたんだろ、どうしたんだろ!」
円が慌てて飛び出そうとするところを、庄治がその手を掴んで止める。
「待って待って、月島さん! オレらが出てくと余計にややこしくなるって!」
「え!? あ、そうね!」
その言葉に幾分か冷静さを取り戻し、円は再び腰を下ろす。ちょっとドタバタしてしまったが、ロビーの人達の視線は、大声を出した和泉やシエルへと注がれていて、こちらは目立たずに済んだようだ。
「……謝ってるなぁ」
ぺこぺこと周りの人達に頭を下げる和泉とシエルの姿に、庄治はおかしくなってしまう。
いつの間にか庄治もこのグループに馴染んできていた。確かに半年も付き合ってしまえばこうもなろう。特定のグループとつるむことがなかった庄治は、こんな風に友人達と集団で行動する事も悪くないと最近思い始めていた。
「……ん?」
と、ここで、彼は何とも言えない違和感を覚えた。うろたえながらも心配そうにシエル達を見つめる女神を改めて凝視しながら、この状況の中で自分は何か大事なことを見過ごしている気がする、と庄治は感じた。何かが引っかかると思いつつ、庄治は首を捻るがどうにも思いつかない。
「あ、見て見て、丘村くん。二人が一緒の紙パックで仲良くジュースを飲んでるよ!」
「え、あ、うん」
円の言葉に、考え事を中断すると、庄治も再び二人に視線を移した。
「笑ってる笑ってる。なんかいい雰囲気だよ」
「お、ほんとだ」
何やら話し込む二人は終始穏やかなムードだ。もはや仲直りをしているのかもしれないと、円も庄治も安心した。
「ああ、よかったぁ!」
パァと後光が差すかのような円の笑顔にドキリとした庄治は、突然、重要なことに気がついた。
「うあ……ああああ!!! オレ、女の子と二人きりだ!!!」
「えっ!?」
突然大声をあげた庄治に、またもやロビーにいた人々の奇異なる目が注がれる。
この場合、庄治というよりも無人のソファから声が聞こえたというべきだが。
「あ……、お、丘村くん、これはまずいんじゃ」
ヒソヒソと円が庄治に耳打ちする。
「はい……」
庄治は失敗したと思いながら、心配そうにする円の顔がすぐ横にあることにドギマギしていた。
――やっべー!!
月島さん顔近っ! てか可愛い!
さっき立ち上がろうとした月島さんの手、オレ掴んじゃったよな!?でも嫌がられなかったよな!?
いやいや、そもそも昨日おぼれそうになった月島さんの抱きかかえたのもオレじゃん!! 女体を触ったのなって初めてだったよな!?(*注 凪も助けてます)
あ、あれ? オレってこれひょっとして、あれ!?
こんなに優しくされるとヤバイんじゃねぇの!?
ま、まさか、これが噂に聞いた…………恋!!!!!?
唐突に、庄治は引き締った顔で円の手を握った。
「月島さん、今度どこかに遊びにいきませんか!?」
「え、な、なに!? きゅ、急にどうしたの!? えっと、いや、ど、どういうことかな!?」
「ふ、た、り、っきりで!!」
ざわつくロビーの様子に、なんの解決もしていない今の状況。それに覆いかぶさるように、突然わけのわからない事を言い出す庄治。円の頭はパニック状態になっていた。
と、そんな庄治がゆっくりと立ち上がっていく。いや、正確には吊り上げられていく。
「おうぷっ! おっさ、べふ!!」
「てめぇ……」
憤怒の形相で庄治のTシャツの襟を掴み、ゆっくりと締め上げる男の姿がそこにあった。
「ゆ、結城!?」
「てめぇ、何やってんだ、コラ」
首が絞まる苦しさよりも、その圧倒的な殺意のオーラで庄治はチビりそうになっていた。
「あ、和泉くん……」
いきなり現れた和泉にびっくりして再び不思議な動きをする円に、和泉の横から顔を出したシエルも呆れ顔だ。
「なにやってんのよ、円ちゃん……」
「う、ぐ、それより、も、早く、オレを」
ジタバタと蠢く庄治だったが、無言で立ち尽くす和泉には円でさえも声をかけられる雰囲気ではなかった。
「ご、ごめんね、丘村くん」
ハの字眉毛で謝る円に、庄治はそんなぁと情けない声を出す。そもそも和泉はすでに阿修羅を超えるべき存在へと昇華していたので、すでにその耳には円の声も届かないに違いない。
ロビーのざわついた雰囲気に、円はハタと気付く。
「あー、たびたびすんませんね」
シエルが再び愛想笑いを浮かべ、宿泊客へと頭を下げた。
「あ、あああ、お騒がせしました!」
それにつられるかのように、円も大きく頭を垂れる。
美少女二人の謝罪に、周りの人達もなんだかんだ言いながら散っていった。
「ご、ごめんね、シエルちゃん、私達のせいで」
一応そこに庄治も入れるあたりが円の優しさである。
「ああ、ううん、いいっていいって。心配してくれたんでしょ」
手をパタパタとふりながらシエルは照れた笑い顔を見せた。
「う、うん。それで仲直りはできた? よね?」
心配そうに問いかける円の腰をパンとシエルが叩く。
「きゃっ!」
「あったりまえじゃん! 私とイズミが後を引くようなケンカなんかするかっての!」
ニシシと笑うシエルに、やっと円も笑顔を見せた。
「ほら、雨上がらないなら別の事して遊ぼうぜ!」
「うん、そうだね」
「あれ、そういやタカユキ達ってどうしてんだ?」
「アイツラナラ、サッキ演劇ノ練習スルテ、中庭ノ方へ行ッタゼ」
シエルの疑問には阿修羅を超えた和泉が丁寧に答えてくれた。
「わぁ! そうなんだ!」
「へぇ、熱心だねぇ」
感心する二人は顔を見合わせる。
「茶化しにいきますか?」
「トーゼンっしょ!!」
非常にどうでもいいことだが。
この騒ぎの後、和泉はすでに落ちている庄治の頭を掴み、ズルズルと引きずって闇の中へ消えていったという。
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